2022年のアルバム(日本の)~おまけを添えて~


さて、2022年のアルバム振り返りシリーズ。
第2弾は国内の新譜もろもろです。


それにしても、整理を始めてから再確認しましたが。去年は本当に音楽聴くコンディションになかった部分が大きいようで、把握していたのにちゃんと聴けていないので入れられない作品の多いこと。特にロック。 ベテランの復活作をはじめ、色々楽しみにしてた筈なんですけどね。やんぬるかな。

と、まとめようにもこの体たらくでは流石に考えてしまうところですが。掴まれたものには掴まれている、というのも疑いようのない事実なので。2023年を迎えた今、この時点で挙げられる作品を並べておくのも損はないかなと。ま、とどのつまり個人的な備忘録ですからね。


ということで。これは、というものを15枚ほど。

昨年同様のあいうえお順(15枚目は特別枠なので大トリに)。


1. Kabanagu - ほぼゆめ

もっと素直なのから入ると思いきやいきなりのこれという。表面的な安寧のなかで見え隠れする狂気。油断してると振り落とされるんだけど、わかってても弛緩しちゃうのが心憎い。

2. 國 - MOMENTUM

直球のダウナー系ギターロックと書いた場合、想定されるのはどのあたりなのか。まあそういうノリ。なんだかんだこういうのはずっと好きなんだよな、と。検索性の低いバンド名が気になるところ。

3. cosmomule - 静止軌道上空のあなたへ

聴き進めるうちに参照元であろう幾人かの先人が結像してくるものの、それはそれとして音を転がして遊んでる様子そのものが楽しいという。電子音メインで演出されるラフな空間。

4. C子あまね - Japan

ここまでくるともはやなんでもありか、でもこのごった煮感こそ強みだよなあ。ヒップホップもボサノバもファンクも。でもロックバンドは恥ずかしいそうで。どうでしょうかね。

5. the giraffes - Birthplace

山中さわおthe pillows)に連なるバンドの中だとあるいは一番好きかも……な人たち。サクッと弾き語りというには、明らかにゴージャスな仕上がり。にしても影響がモロすぎて笑う。

6. Superfriends - Night Thinkers

相変わらずどこまでも日本語発音な英語なんだけど、それでも聴いてましたね。曲が好きだとどうってことないんだなと。疲れていてもスッと耳に入ってくる、素直すぎるくらい素直なメロディー。

7. TEMPLIME & 星宮とと - Escapism

よく聴いてた人たちの動きが少なかった昨年のネット系なもろもろだとこれかな。一言、かわいい。結局バキバキなのとかシティポップどっぷりなのよりこういうのがツボなんだなあ……と改めて。

8. パスピエ - ukabubaku

前作でこんな曲作るバンドだったのかと認識を改めたのも束の間。まさか年末にこんな名作を放り込んでくるとは。巷でボーカルの声色がどう形容されているのかを見てああ、と得心。

9. Perfume - PLASMA

ライブに行ったのもあり。既発曲が多かったようですが新鮮に聴いてたなと。上のパスピエと合わせてペンタトニックが目立ちつつ、シティポップっぽいのからテックハウスなノリまで。

10. 堀江由衣 - 文学少女の歌集Ⅱ-月とカエルと文学少女-

これも前作でおっ、となったところから。3曲目なんか即前期SURFACEを思い出してしまうなど。先鋭的な音楽だらけの昨今こそ、こういう親しんできたところの延長線上にある音楽の数々が有難い。

11. MASS OF THE FERMENTING DREGS - Awakening:Sleeping

今年のロックベテラン新譜枠、全部ここで賄ってたんだなあ……としみじみ。toddleとのツーマンの存在も大きい(ライブでの「1960」は圧巻)。どの曲も素晴らしい出来で瞬く間に過ぎる33分。

12. Moon In June - evergreen

気怠い空気の中をボーカルが揺蕩う、ドリーミーな成分多めのギターロック。サクッと聴けるのもうれしい。この方面も新譜アレとかコレとかあったんだけどな……。これから聴こう。

13. yardlands - NPMP

漸く。暫く待ってる間にあらゆる部分が様変わりしてた感は否めないですが、変わったうえでそれをも好きだった幸せ。2022年、ほんと日本の音楽に何を求めてたのかわかりやすすぎて。

14. LAYRUS LOOP - ポップコーン

それでもやっぱりこの類のノリは好きなままだった。20分に満たない総再生時間の中をあっという間に駆け抜ける。こういうコンパクトなEPが刺さりがちなんだよなあ……。フルアルバム来てほしいね。





と、いうわけで。問題の特別枠です。


15. 結束バンド - 結束バンド

原作勢なので、アニメ化発表に至るまでの勢いもある程度把握してたとはいえ。まさかこうなるとは思ってなかったよなあ。せっかくなので以下、流れに任せてだらだらっと書き連ねてみましょうか。

実のところ、原作1巻を読んだ(単行本勢なので)当時は。日陰に生きる者としてのオタクな内輪ネタを面白がりつつ、きらら4コマながら明確なストーリー展開もある良い作品だな……という程度の印象だったんですが。

巷での評判もオタクを掴む勢いあるコピーと崩しを多用した絵柄の奇抜さに対するものがメインという認識。もちろんライブシーンの外連味とか、あるいは活動場所としてのライブハウ周りに関する描写を省かない姿勢、なんてのも特徴的でしたが。特に後者なんてのは、それこそスクールバンドとの差異の明確化ですよね。

このあたりに関しては、インタビューにてはまじ先生本人がしっかり言及なさっています。
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で、あれよあれよという間に巻を積み重ね(描かれる内容がどんどん濃くなっていったのは予想外でした)。あるいはそろそろか、と思った頃にアニメ化の発表。ちょうど1年前に発表された最初の映像では、今となっては素晴らしかったというほかないキャラクターデザインに当初は(決して悪くはないんだけど、やっぱり原作の柔らかい線をそのままというわけにはいかないよね……)という偽らざる感想を抱きつつ。PVを経て、ついにやってきた第1話。

ここからはまさに怒濤の3ヶ月間でしたね。アニメ演出にはとんと疎いただの一視聴者が言及するのもアレですが、ギャグ周りではここまで意図的に作画を崩して場面を成立されられるものなのか、と驚き。豊富なネタに彩られながら着実にバンドとしての歩みを積み重ねる中でやってきた待望のライブシーンでは、画のみならず音も細部まで丹念に磨かれたその巧妙さに舌を巻き。一つ一つを挙げていけばキリがありません。そんな最中に告知された、セルフタイトルのアルバムリリース。最終12話を控えた時点では、既に発表されている曲のクオリティに思いを馳せつつ期待に胸を膨らませていました。そうしてやってきたのがこのアルバムです。

耳に馴染んだ曲が断続的に現れるのもあり、どうしても1stフルアルバムというより劇中曲を詰め込んだベストアルバムとしての意味合いを強く意識してしまうんですが。アルバムで初のお披露目となった各曲に関しても、やはりそのクオリティの高さを感じさせてくれます(あまりに隙のなさすぎる演奏に突っ込むのは野暮として)。最近のロックに関する動向に明るいわけではないので、そのあたりは既に語られているであろうもろもろの文言に任せておきます。スネアの16分連打がキメどころというキメどころで聞こえてくるのだけはちょっと気になるところですが。まあそこはそれ。

タイトルしか出ていなかった「あのバンド」をあの領域まで高めたセンスや、大盤振る舞いもいいところのEDタイアップ(スズキハルカさんの画があまりにも良すぎて……何度でも見ていられる)。「カラカラ」のあの曲調がアニメEDとして聴けるなんて、すごい時代だよなあ……としみじみ。提供なさったそれぞれのミュージシャンが、結束バンドの4人というパレットを用いてしっかりとその持てる色を露わにしているところが素晴らしい。編曲の三井さん(やはりLOST IN TIMEか)の功績たるや。

そんなこんなを踏まえたうえで、これだけは書いておきたいな……と思ったのが。第12話、作品を締めくくる最後のEDで流れたあの曲についてです。ある程度ぼかして書きますが、まだ見ていないので……という方は読み飛ばしていただければ。

要はtwitterで散々つぶやいていたことを書き残しておきたいな、というだけなんですが。そちらで【地に足のついた拙さ】【力強い辿々しさ】【訥々とした爆発】などと形容していた、単純な歌の上手さ(こちらは他の3人がそれぞれの曲で見せてくれましたね)とは異なる何か。

真に迫るとはこういうことなんだよな……という表情の見えるボーカルでありながら、あくまで平時の独り言くらいのコロコロした声色は保ちつつ。2番Bメロ〜サビあたりの抑制された声に乗る感情の幅なんてのは、聴いてるこっちをも震えさせるものがあるといいますか。そのくせ1番Aメロでは(おそらく大仰な詞に対する)ある種の照れくささが垣間見えたりして。張り上げなくとも伝わるものがあるということを、ここまで思い知らせてくれるのは流石です。

と、この振り絞った声の出し方との調和という点で素晴らしかったのが、跳躍をたっぷり含んだメロディーへの節の乗せ方なんですよね。詞と対応する譜割りとしての音節と旋律の重なりに対してどう向き合うか、というのはとても難しい問題であって。撥音や長音の処理一つで全て変わってきてしまうなか、跳躍における詞のタイミングを始めとする随所でしっかりと音節を見せる歌唱。この歌い方がその声に乗る表情と組み合わさったときの効果というのは相当なもので。

平板なひらがなっぽさを感じられるカタカナの発音や僅かに鼻にかかるmやnの子音、あるいは地声からファルセットの切り替わりにおいて生じる微妙なズレから随所に見られる震えに至るまで、それら全ての要素が「キャラクターがカバーした歌唱」としての性格を十全に表現してくれているという。これほど幸せなことがあろうかと。原曲を好きで聴いていた人間にとって、これほど聴き比べることに意味を感じられるカバーはご褒美以外の何物でもないんですよ。


ついつい長くなってしまいましたが、このへんで。


いやはや、音楽に目を向けきれなかった1年というわりにはなんだかんだたくさん書いちゃったなあと。まあ殆ど大トリに割いてますが。以上、日本のもろもろでした。記憶の記録として、これを書き残しておけたのはよかったかもしれないですね。


またまた、次はどれになることやら……。