ミリオンセットリスト No.64 the pillows タネ明かし的な何か。 (1/2)

そんなものに参加していました。

https://twitter.com/monochromeclips/status/974406741713498112

 

↓こちらがそのダイジェスト動画です

nico.ms

 

ざっくり説明すると、アイドルマスターミリオンライブ!の各キャラに、一人一曲ずつ自分で指定したテーマに沿った曲を組み合わせましょう、という企画です。

 

なんと5人も同じテーマを選んだ人がいたという(そういう私は最後の一人なので、完全に4人の背中を見ながら突っ込んでいった形ですが……)。

 

↓あまりの被り具合に興味を持った主宰者(シンゴ (@raka3456) | Twitter)さんが、参加者5人を集めたチャット座談会の場を設けて下さりました。本当にありがとうございます。

t.co

 

 

さて、この場では座談会でも触れられなかったあれこれについて一曲ずつ書いていこうかな、と思っています。蛇足といえば蛇足かもしれませんが、まあお付き合いいただけると幸いです。

  

・第一部

1-1 望月杏奈『Beautiful morning with you』

――開演待ちBGMが止み、照明が暗転してこれ以上ないほど高まる会場内にどこからともなく聞こえてくるイントロ。いつの間にか舞台上にはクリーム色のベースを引っ提げた一人の少女。演奏が始まり、スポットライトが少女を照らす。ライブが始まる。

 

選んだイラストは「ベースに恋して!」。このカードが追加されたときの喜びようは今も鮮明に覚えています。というのもこのイラスト。目元の柔和さはかなりOFF寄りでありながら、全身から「音楽をやる喜び」が溢れ出ています。一目見た瞬間に「あ、これはOFFとONを両立させた、素で楽しさを前に出せている杏奈だ」という感動に打たれたのは言うまでもありません。

 

杏奈とこの企画を結びつけた瞬間から、選ぶカードはこれを措いて他にありませんでした。では何の曲を合わせるか。実は、このイラストを選んだ理由の時点で選ぶ曲は決まったも同然でした。なぜなら、the pillows中で最も「表裏一体な静と動が具現化されている」といえる曲だからです。一番のサビを超えた先の二番ではまた静けさが回帰する、という構成。ON/OFFの切り替わりがはっきりしている、という理由だけで杏奈に託すのは寧ろ危険な賭けのように思えますが、そこを解決するものこそイラストで間接的に示されたONとOFFの融合だと思うわけです。ONでOFFを楽しみ、OFFでONを味わうことの出来る境地であればこそ、この曲を与える意義も出てくるというものではないでしょうか。

 

残るのは、どこに配置するか、という問題。所謂出囃子をバックに入場して熱い曲から観客を掴まえにいくのではなく、暗転からシームレスに一曲目へと繋がる演出を見てみたい。この杏奈ならそれが出来る。そんな判断の下、まさかの(?)一曲目ということになりました。といいつつ、これもかなりすんなりと決まっています。まあBeautiful “Morning”だものな、というのもあったりなかったりしますが。なんにせよ、ライブは始まってしまいました。あとは最後まで駆け抜けるのみです。

  

1-2 春日未来『We have a theme song』

――幕開けのナンバーを終えて沸き上がる観客。地鳴りのような歓声。舞台袖からどっと押し寄せる今日の主役達。挨拶。中央に立つ杏奈に駆け寄るのはやはりこの人、春日未来。先陣を切った杏奈と軽く言葉を交わしたあと、舞台は再度暗転。このままおせおせ、でいくかと思いきや。聞こえてきたのはどこか間の抜けた軽妙なイントロ。舞台上には一人の少女。袖へ捌けていった皆を背負って立つ。

 

未来も「The World」を選ぶのは既定事項でした。考え方は人それぞれですが、私はやはり未来こそミリオンライブ!というコンテンツを代表するに足るアイドルだと認識しています。というか、よく言われるところの「赤の系譜」にあたるシアター組のアイドルが未来だからこそ、ミリオンライブが現在のような「色」をしているんだろうな、と思うんですよね。ミリオンライブという世界全体を象徴し、かつ春日未来という少女をも象徴するこのイラストの笑顔。それが「The World」春日未来だと思います。

 

曲について。この企画に参加する際改めて一から曲を聴き直すなかで、この曲と出くわしたとき。思わず勝利を確信してしまった自分がそこにはいました。私の考える、どこか抜けていて空回りすることもままあるけれど、最後の最後は譲らない未来像。折れず、へこたれず、諦めずにいつだって前を向いている一人の少女としての春日未来。そしてその先に見る、ミリオンライブ!の象徴としての春日未来。そのどちらに対しても、これほどぴったりと当てはまる曲があるでしょうか。

 

私がこの企画に参加するうえで最初に立てた方針のうち一つが、「セットリストを作るからにはライブで歌ってもらう、歌わせたい・観客に届けたい曲をあてがう。彼女たちに聴かせたい曲、彼女たちの印象に終始する曲、といった観点に止まらない選曲をする」でした。とはいえそれこそこの曲も、今まで述べてきたとおり未来を象徴する曲としての立ち位置は強いです。しかしながら大事なのは最初に述べた方。要は「次のライブではこれを歌おう」と曲を渡したらどんな顔するかな、とか。あるいはどんな気持ちでこの曲を歌うかな、とか。そういうところに力点を置いた選曲を心がけました。そこを踏まえてこの曲を選べて本当によかったと思うわけです。この曲を歌う未来。この曲を歌う未来を見て何かを貰う観客の姿。そういう何か。

 

配置の話。杏奈で入ったあとの全体MCから繋ぐ、というのはわりと鉄板かと思います。MC開けでいきなりこんなヌケた曲、というのもまたミリオンらしいといいますか。悪くないでしょう。

 

 1-3 高坂海美『I think I can』

――未来の歌を聴いていたら、明日も頑張っていこうと思えた。終始笑顔で、今が楽しくて仕方がないとでも言いたげな様子。名残惜しそうに捌けてゆく。暗転。静寂を打ち破るギター。歌われるのは一つの宣言。何でも出来る気がした。

 

基本的に、合わせるカード(イラスト)はフィーリングで選んでいます。その意味では最初の2人こそ例外なのであって、殆どの子等は①曲となんとなく印象の合うもの、②ライブや歌と関係したシチュエーションのもの、③単純に好きなもの、のうちどれかに即して選定されています。背景のない周年ライブイラストなどをあえて選択している場合は③が強いですね。海美はマイクを持って歌っている、曲の勢いに合ったイラストだったので「恋愛ロードランナー」をチョイスしました。

 

海美で直感的に選ぶなら、あるいは海美に選ばせたら即帰ってきそうなのは『RUNNERS HIGH』なんですが、これはハバネロさんとフランツさんが既に選曲していました。ここで追加ルールとして、「過去の選曲者(4人いらっしゃいます)が選んだ組み合わせは避ける」を立てています。まあ、僅かながら例外もありますが。そちらは出てきたときに触れます。では他に合う曲はないかな、と考えると。ありました、ぴったりな曲。それがこの曲です。一度思い立ったらうずうずして立ち止まってはいられない海美だからこそ、この曲のもつ高揚感を存分に引き出してくれるでしょう。

 

やっぱり最初のセクションは勢いが大事だよね、ということで未来に続けて海美でした。このままガンガン突き進んでいきたいところですね。

 

1-4 高槻やよい『オレンジ・フィルム・ガーデン』

――「I・C・A・N」のワンフレーズを以て会場のボルテージを最高まで引き上げた海美。ラストのギターが鳴り響く。鮮やかな余韻。と、そこに聞こえてくるのはまたもや一風変わったフレーズ。ライブはまだ始まったばかり、落ち着いていきましょうということか。ステージ上にはやよいの姿。10年の旅が始まる。

 

合わせたカードは「星の海」。「うみ」つながりというわけではありません、念のため。この曲のわかりやすいようでいて具体的に捉えようとすると零れてしまうつかみどころのなさにちょうどいいかな、と思った次第です。かわいくもあるけど神秘的でもあるといいますか。

 

やよいの持ち曲を思い浮かべて選ぶならもっとアグレッシブで元気な曲を選ぶところでしょうか。などと勘ぐりつつも実はこの組み合わせ、個人的にたいそう気に入っています。もともとやよいってこういう気怠げな曲と相性良いよね、と考えていたのもあり。イメージカラー的にぴったりだ、というのもあり。極めつけは何度も出てくる「ううっうー」……というのはさすがに冗談ですが。あとでふとそこに思い至ったときは勝ったな、とほくそ笑んでしまいました。詞という観点では、10年以上のつきあいとなるとやはりAS組を挙げたくなります。何を思って聴くかによって全く異なる聞こえ方をする曲だと思うので、そういう楽しみ方もアリかもしれません。

 

曲調が曲調なので配置は結構融通が利くイメージでしたが、元気っ娘で繋げていきたい、『I think I can』のA→Dでまあ悪くない流れ、という2点からこの位置にきました。ちゃんと聴いてみるとBメロはかなり音が厚めだったりもするので、セトリとしては少し落ち着くけれども熱さは失わない、といういぶし銀枠になるかと思われます。こういうやよいが聴きたい。

  

1-5 中谷育『Ladybird girl』

――今晩夢にやよい出てくるかもな、なんて戯言を考えつつ。気がついたら10年以上の時が流れていて。どうやら次は育ちゃんらしい、ここでいつものハイタッチ。さて、どういう路線の曲で来るんだろう、と想像を膨らませているうちに聞こえてきたこのイントロは。……なるほどね。

 

育は選曲を悩みに悩んだアイドルの一人ですが、この曲に決めたあとはすんなり「プリティアイドル!」と合わせる方向で落ち着きました。そのまんまで恐縮ですが、やっぱり元気でかわいいです。ばっちりカメラに視線を投げていて、これがLVとかで写ったらさぞかし映えるでしょうね、などと思わず考えてしまいます。

 

先に触れてしまいましたが、育の選曲が決まったのは終盤もいいところでした。当初より「かわいい曲と合わせたい」という漠然とした方向性はあったのですが、何しろthe pillowsにおける素直な(これが重要)かわいい曲の少なさときたら。少し捻くれていたり、どこか掴みどころのないかわいさの曲ならそこそこ思い浮かぶのですが、直球でかわいい、且つ元気な曲というのがなかなか見当たりませんでした。最終的には、かなり早い段階で思い浮かべたこの曲と合わせることと相成りました。歌のもつエネルギーのまっすぐさとしては悪くないと感じましたし、育のおかっぱテントウムシっぽいっちゃぽいので。ちょっと強引ですかね。ギターじゃなくてドラム担当だろ、というツッコミはご愛嬌。

 

やよいからの育はまあばっちりハマるよね、ということで。この先にもいくつか出てきますが、定番の繋ぎ、というのはセットリスト構成においてかなり意識したところの一つです。曲間MCの有無によらず、そこで行われる僅かなコミュニケーション。いいですよね。

 

1-6 徳川まつり『WAITING AT THE BUSSTOP』

――元気っ娘が歌う「Is this love, this is love!」の余韻に浸りながら迎える小休止。少し長めの無音。MC入るのかな、と思いきや唐突に鳴り響く軽快なリズム隊。もうこの勢いは止められない。待ちきれないと言わんばかりに飛び出してきたのは、いつだって全力なお姫さま。厳かな謁見なんて必要ない、そこのあるのはただ熱狂のみ。あっという間に駆け抜ける。

 

「フェスタ・イルミネーション」。そもそも曲が好き、というのもありますが。パーソナルカラーのサイリウムで埋め尽くされた会場で不敵なウィンクを見せるまつり、カッコいいんですよね。曲が早くに決まっていたということもあり、吹き抜ける一陣の風のような、熱くそれでいてベタつかない曲を歌うまつりのイメージをスッと落とし込めた選択だったかな、と思います。

 

……といいつつも。この選曲を皆さんがどう感じるか、という点に関してはヒヤヒヤしています。普段のポップでキュートなお姫様というイメージとも、ここぞという場面で見せる実直さや優しさといったイメージとも違うまつり像。言われてみればわからないこともない、というところに帰着していただければしめたものです。ただ、仕方ないとはいうものの惜しいのはその短さ。目を離したら見逃してしまうぞ、と釘付けになるのもある意味姫らしい煽りかもしれません。

 

最初のセクションでありながら、怒濤の勢いで突き抜けていく。『Ladybird Girl』の直線的な勢いは、そのまま受け継がれることになります。姫のことだからドラムの入りで会場沸いたあとそのまま煽り始めるかもしれません。このあたりはもう勢いを殺さない、ということにのみ心血を注ぎました。そしてその勢いは本セクションのラスト・ナンバーへと引き継がれます。その前にMC。

  

1-7 秋月律子『Blues Drive Monster』

――光陰矢の如し、とはよく言ったもので。瞬く間に過ぎ去った強烈な旋風により、会場の興奮っぷりは最高潮。……と、どうやらここでMCらしい。ここまで最高のライブを提供してくれた皆が壇上に現れる。一仕事終えて晴れ晴れとした顔。和気藹々のひととき。どうやら、次の曲で一区切りのよう。舞台から誰もいなくなる。さて、何で締めるか。……やってきたのは、エレクトリックな怪物。

 

「アルティメットライブ!」、良い表情してますよねえ。今回のセットリストはミリオンライブ!のセットリストとして、言い換えればASが先輩として在るものとしましたから、こういう顔の律子を見ると選ばないわけにはいきません。ある意味、大事なカードでこういう表情をぶっ込んできたグリマス運営にしてやられた、と言えなくもないでしょう。

 

さて、タネ明かし……というほどでもない小ネタをここでいくつか。まず最初に、このセットリストのインターバルで区切った7乃至8曲(およびラスト3セクションを合わせた9曲)は、そのままツアーの1公演としてもっていけるような作りを意識して配置しました。各セクションのメンバーがもろに繋がりを意識したものになるのはともかく、ファンのテンションが維持できるかどうか怪しい選曲が続くところもちらほら見受けられるあたりかなり攻めてますが。

 

「何が」「誰の」Blues Drive Monsterなのか、という解釈の余地を残す選曲をしたつもりなので、あくまでその一つとしてですが。キーワードとなったのは冒頭のメガネ。律子と紗代子は早々に二曲を分け合う形の構想がまとまりましたが、それぞれが有するエネルギーに見合う曲を選択した結果こうなりました。ここでセクション単位で仕込んだネタが一つ。それは、いっそここまでの6人6曲をBlues Drive Monsterと見立ててしまおう、というもの。意図的ではあったもののひたむきな曲が集まっていたので、全部覆い尽くして締めてやろう、という発想からこの曲で締めることに決定。当然ながら選曲基準として「律子が歌う=届ける側に立つ」ということは明確に意識していましたが、舞台上で演者がそこにどんな思いを乗せるかというのはその人にしかわかりませんよね、ということで諸々の期待を込めた選曲となりました。

 

さて、これで第一部は終了。休憩を挟んで第二部へと参りましょう。

  

 ・第二部

2-1 宮尾美也『HAPPY BIVOUAC』

――最高の形で繋がれたバトン。束の間の休憩も終わりの時を迎える。暗転したかと思えば、今回はすぐにまた舞台が照らし出された。中央には既に演者の姿がある。にわかに色めき立つ場内。いかにも、な煽りの一言を合図に始まる第二部。頂上を目材して突き進む。

 

もし私がグリマスのカードイラストから「映える」ものを選ぶなら、まず間違いなくこの「ハッピ~エフェクト!」を候補の一つに挙げるでしょう。この鮮やかさと構図の大胆さには、一目見たときから圧倒されっぱなしです。描かれているもの自体は穏やかな一コマですが、描き方次第でこうも躍動感が生まれ出るものなのか、と。なんというか、見ているだけで幸せな気分になれます。カード名を体現した一枚と言えましょう。

 

さて、第二部の始まりを告げる曲は『HAPPY BIVOUAC』です。実は先日鑑賞した15周年ライブDVDでこの曲を改めて聴き直したところ、セットリスト作成時に意識されたことがその瞬間まで抜け落ちていた、ということに気づいて反省したとかしないとか。というのも普段はボーカルも一つの楽器として捉えがちなので、選曲の際は良い機会とばかりに詞を正面から「読んで」聴き直した、という経緯があり。一通り終えてから一年近い月日が流れた今、ライブDVDという形で改めて意識的に曲を聴くことでだんだん薄れていた当時の感情が突如蘇ってきたわけです。当時この曲を選んだ背景には、当然曲調のゆるさと美也が放つテンポ感との合致、というところも勿論ありました。しかし同時に意識されていたのは、「頂上」という言葉を繰り返し用いながら絶えず前を向き進み続けているその姿勢でした。これが美也の秘めたる熱さや負けん気とぴったりハマる、というわけで採用に踏み切りました。手前味噌ながら、今考えてもこの組み合わせは会心の出来といっていいでしょう。

 

一休みという観点ではセクションの中程に挟み込むというのも一つの手だったのですが、その力まないながらもけっこうな分厚さで始まるイントロはどアタマにもってくる方が寧ろ面白いだろう、と判断した結果こうなりました。加えて、そもそもこの曲が同タイトルのアルバムにおけるオープニングナンバーである、という事実が大きく影響していることも否めません。この他にも何曲か、アルバム内の位置づけをそのまま拝借した構成があります(そちらに関しては都度触れるということで)。セクション間の配置としては、カラッと乾いた勢いのある第一部に対するカウンターとして機能することを期待し第二部に。このセットリストはセクションを組んでから並べる方法を採ったため、比較対象としては他セクションの1曲目が挙がってきます……とは言ったものの、改めて見直すとちゃんとセクション間構成に合わせて曲順を配置していますね。どうやら当時の自分、それなりに頑張ったみたいです(こう書くと他人事にしか見えませんが)。

   

2-2 七尾百合子『バビロン 天使の詩

――美也の穏やかな、且つ力強い宣言で幕を開けた第二部。早速軽めのMCが挿入される。あれよあれよという間に時は過ぎ、次の曲の準備へ。果たして、頂上を目指して歩き続けたその先には何が待っているんだろうか。そんな考えが頭を過ぎたところで、聞こえてきたのはこれまた捻くれた独特のフレーズ。そう、壇上の彼女はいつだって立ち止まらない。今日もまた、自らにとってのシンプルスカイを追い求め続ける。

 

この「幸せ読書トーク」というカードも、追加されてすぐイラストを確認した瞬間に震えがきました。何故か。それは、百合子と読書あるいは妄想(暴走)が1:1で結びつけられたものとは異なり、それまで見当たらなかった「読書家としての暴走」という姿を生き生きと描いている初めてのイラスト、という印象を受けたためです。ざっくり言えば、目に入ったその瞬間に「あ、紛れもなく百合子だ……」となる名イラストではないでしょうか。

 

この曲、何を隠そう私がthe pillowsで一番好きな曲を問われたとき挙げるようにしている一曲です(実際には順番なんてつけられないんですが……)。先月末この曲を生で聴けたのは一生の思い出となることでしょう、というのはさておき。実のところこの選曲に関しては、曲に散りばめられたモチーフと百合子との親和性はかなりのもの、と自負している私がいます。図書室の暴走特急としてのイメージ、空想文学少女としてのイメージ、さらには風の戦士としてのイメージ。あえて詞を抜き出すことはしませんが、そこかしこに百合子っぽさを感じるのは私だけでない筈(本当か?)。

 

配置に関してはシンプルに、頂上というモチーフとバベルの塔や空というモチーフが容易に連結出来る、という考えから手繰り寄せました。おそらく繋ぎのMCでもそのあたりに触れて次の曲をやんわりと予見させるんじゃないかな、とか。そういう部分に思いを巡らせるのもまた一興ですよね。

  

2-3 真壁瑞希『RUSH』

――風の戦士、いや風の天使の面目躍如、といった晴れやかな笑顔。会場いっぱいの大歓声を、突如現れた閃光のようなドラムの音が打ち破る。一瞬にして空気ががらりとその色を変えた。誰よりも優しい彼女の差し伸べたその手は、きっと暖かさに満ちている。

 

瑞希にこの曲を渡しておきながら選んだカードが「勝利の微笑」、というところに引っかかった人、やっぱり多かったんでしょうか。私としては一択といってよかったんですが。勿論好きな真壁くんのカードイラストは沢山あるんですが、この曲と組み合わせるならこの絵しかないでしょ、と思っていました。というのは、文脈が繋がるから、です。もう少し具体的な表現ならば、真壁と曲との間を埋める鍵そのものだから、と言いましょうか。

 

この企画にthe pillows参加した人が複数名(全5人)いた、という事実は既に主宰から言及されているのでご存じの方も多いかと思われます。その中に「5人全員がそれぞれの場面で選んだ曲」というのが4曲ほどありました。謂わば引っ張りだこの人気曲です。そのうちの一つが、この『RUSH』。主宰の粋な計らいでこの5人は後日座談会の場を設け、それぞれの選曲について言葉を交わしたのですが、その際にもそれら人気曲の選曲理由が議題に挙がりました。思えばそのとき、私は改めて自分の選曲プロセスにおける周りとの「ズレ」を認識したのでした。ズレ、という表現にマイナスイメージを抱くかもしれませんが、あくまで選曲そのものではなく過程、つまり方法論に差異を見出した、というだけの話です。と言ったところで、元はといえば各々に少しずつ差異が存在するからこそ、結果的に5人が5人異なる曲を異なる理由で選ぶという面白みが生まれるわけですが。

 

その差異を生じさせる間接的なきっかけは、それぞれが参加した時期に生じた大きなインターバルでしょう。3人が2016年に、2人が2018年に参加しているので、そのとき背後にある状況もまた全く異なるわけです。そして(あくまで私の場合、ですが)そこから引き出してきた裏・大テーマこそ、「グリマスの終焉(終演)を意識した構成」に他なりませんでした。つまり、①グリマス終了までに各々は各々の道のりを歩んできたものとする、②区切り・終了と新たな始まりを頭に置いた選曲をする、③AS・DS・シンデレラ・SideM・etc.と山あり谷ありで続いてきたものに訪れる大きな転換点として、the pillowsというバンドにおける初の活動休止期間を重ね合わせる、つまり選曲は新しいところでアルバム『トライアル』まで、という形に納める。これらの3本柱を軸としたのです。漸く言えました。これに触れるべきタイミングを逃したきり、1年以上伏せたまましていたのはなかなか心臓に悪かったです。③があったからこそ『ムーンダスト』以降からの選曲がないわけで(当時『NOOK IN THE BRAIN』まで出ていたにもかかわらず)。また同時に、②があったからこそバンド史上でも大きな節目となる曲をふんだんに使ったセットリストとなり得たのです。

 

だいぶ長くなっておりますが。そして何より、①の存在が私の選曲における最大の要だったといえるでしょう。第一部においても、『Blues Drive Monster』律子あたりでその片鱗が見え隠れするかもしれません。つまり、一見そのアイドルのパーソナリティにおける弱みや負の側面と重なるような詞を真っ向からあてがっているパターンが散見されるのは、自身の内面的な部分では既にその境地を脱した、一皮剥けたような段階にいる彼等を想定していたから、ということになるのです。個人的に、当初抱えていた色々なものを引きずったままグリー世界を終えたアイドルはいないと思っているので、意識的にこのような選曲に踏み切りました。これを挑戦的、と捉えるならばその通りかもしれませんし、裁量は聴いて下さる皆さんに委ねられるものだと思いますのでネタばらしはこのへんに止めておきましょう。いい加減『RUSH』の話に入りたいですからね。……とはいうものの、これだけ書けばもう語り尽くしたも同然でしょう。少なくとも、私が瑞希を連れ出したい、という話ではないのです。瑞希が何を思ってこの歌を聴く人に届けるか、楽しみでなりません。

 

話を戻して。バビロンからのRUSHというのも、百合子からの瑞希というのも。わりと完全に好きな曲・好きなアイドルで繋げちゃえという雑念ありきな繋ぎ(今まで並べてきた御託は何だったのか)。そんなことを言っておきながらも、ドラムからドラムという点や歌詞のテーマ性はわりと近いところにあるかな、と思っています。実際、自分で聴いているときにもこの繋ぎは熱くなるとかならないとか。今考えるとHAPPY BIVOUACとRUSHはアルバム内で連続していながら、セットリスト上でもかなり近いところに配置してたんですね。まあ一曲挟まるだけでも全然違いますから、あまり気にしていなかったのも宜なるかな、というところ。

  

2-4 高山紗代子『Juliet』

――雨は止んで、長く伸びる続けるAのコード。雲の向こうへ連れ出す者があれば、雲を吹き飛ばしてしまう者もある。徐々にフェードインしていくノイズ。瞬間、その牙をむき出しにして襲いかかる。AからAへそのまま接続される歌。眼鏡の奥の瞳には、一体どんな景色が写っていることだろう。

 

グリマスとの付き合いは僅かで、少し輪郭に触れたら唐突に終わりを告げられたようなものでした。それでも、「記念スナップ」がなければおそらくインストールすることもなかったと思います。このカードを選ばないわけにはいかなかった。しかしながら、このカードに合わない曲を選ぶわけにもいかなかった。

 

月並みな言い方をすれば、運命、となるのでしょう。大好きな『Juliet』という曲と、また大好きな高山紗代子という少女との間に存在する緊密な関係に勘づいたとき。この瞬間、この企画に参加してよかったと心の底から実感しました。感謝の念に堪えません。律子のときに触れたように、メガネというキーアイテムの時点で早くから2曲が思い浮かんでいたのは事実です。しかしそこで、改めてJulietの詞を読み直したとき。そこにあるのは紛れもなく、鮮やかな色でした。あらゆる意味で、高山紗代子と、そして「記念スナップ」と合わせることは必然だったのでしょう。……ちょっと言い過ぎな感もありますが、まあそのくらいうまくハマった組み合わせでした。これを紗代子で達成した自分を褒めてやりたい。よくやった。

 

さて、繋ぎの方はといえば。言及した通りA→(ノイズ)→Aという勢いを殺さない配置という点と、みずさよいっときますか、という安直(?)な考えによりスッと収まりました。ハモりパートが気持ちいい曲という印象も根強いので、そっちを瑞希がやってくれた日にはもれなく私がやられます。寧ろ率先してやってほしいなあ、うん。

 

がっつり語ったRUSHとは裏腹に、こちらはとにかくその威力を味わってくれ、の一言で済ませてしまいたくなる誘惑との戦いです。一応触れるべき所には触れたつもりですので、残りのピースはこれを読んでいる皆さんが埋めて下さい。宜しくお願いします。何卒。

  

2-5 北上麗花『天使みたいにキミは立ってた』

――熱い。ただただ熱い。あまりの熱量にどうにかなりそうだ。倍加するビートに乗せて、世界は紗代子の色で塗りつぶされた……かのようにみえた。今度は息つく間もない本物のシームレス。ラストのAと同時に現れたのは。なるほど、曇り空だろうが気にせず雲の上まで飛んでいってしまいかねない天使だった。

 

麗花さんは大好きなカードイラストがありすぎて困るんですよね。「FIND YOUR WIND!」は一目見たときから最高の一枚というほかありませんでしたし、ドライブガシャのポップ感はああいう塗り方への敬意が如実に感じられると思います。そんな猛者達の中から選んだのは「スプリングビューティー」でした。手に入りやすさのわりに絵柄が良すぎるせいで、こんなに簡単に手に入れられちゃっていいのかとかえって不安になる一枚。選定理由としては曲込みの話となりますが、中身のぶっ飛び具合が息を潜めたこの組み合わせ、浸れそうですよね。いや、ぶっ飛んだ曲もそれはそれで見てみたいんですが、ちょっと思いつきませんでした。

 

そんなこんなで、選曲は『天使みたいにキミは立ってた』です。『キミは』です。投稿した画像の誤りに気づいたのは翌日とかそのくらいのレベルだったかと思いますが、こればかりは出してしまった以上仕方がないと諦めていました。やっと訂正。まあなんというか、いとも簡単に何もかもを乗り越えてくるというあたりは非常に「らしい」詞だなあと思います。しかし突き詰めて考えると、特別の塊のような人でありながら普通を愛する麗花さんは、この曲を違う角度から捉えてくれそうな気がしています。つまり、ここで歌われる特別なキミを追ってしまって何もかも手につかない僕という存在こそ、麗花さんの求める普通、換言すれば「恋に恋する等身大の虚構としての普遍」と合致するのかもしれないと思うのです。捻くれた解釈かもしれませんが、そのくらいのクレバーさを持ち合わせていそうなんですよね、彼女。

 

A→A→Aという繋ぎは意図的なものですが、そこになにか意味を込めた、ということは殆どありません。第一部のような曲そのものの勢いに委ねる構成への反動として、曲間の空白に勢いを込めた構成で攻めてみたかったのが本音です。大人しいというわけではない曲の並びなので特筆に値するかは疑わしいですが、曲調に依存しない勢いの演出、というものの一端を探りにいった結果はいかがでしたでしょうか。楽しんでいただければ幸いです。

  

2-6 横山奈緒『TRIP DANCER』

――まるで本当に浮いているかのような。そんな形容がふさわしいしなやかで軽快さに見とれているうち、漸くひとときの休息が訪れる。個性豊かなセクションメンバーによる好き放題にとっちらかった、それでいながら危なげのないMC。どうやらもうこのセクションも終盤。力強さの中に一抹の寂しさを感じさせる前奏。何が正解かなんて関係ない、少女は今日も自分を信じて道を切り開く。

 

「音楽革命を起こせ!」に描かれた奈緒からは、イベント内カードの枠を超えたメッセージを受け取ってしまったような気がしています。それはズバリ、私(達)が世界を作る、ということ。スタンダードなんて知らない、私がやりたいことを精一杯やることにこそ意味があるのだ、という意思。このイベントカードの覚醒後が、まさしく挑戦的な奈緒という強烈な印象を残した『Super Lover』である、ということに運営の意思を見るべきか。個人的には考えすぎだ、と一笑に付したいところですが、どうでしょうね。何にせよ、とても好きな一枚です。当然ながらスチームパンクというガジェットもイイ。

 

まあ、そんなところを踏まえてといいますか。自然と彼女には攻めの姿勢が強く出た曲があてがわれました。アルバム発売当時におけるバンドの境遇を考えると、この曲はもっと悲観的な景色が強く出ている印象を抱く人もいるかもしれません。しかしそれでも、私はアルバム『Please, Mr. Lostman』から「やってやろうじゃねえか」という熱さ、あるいは周りの出方をうかがうことから解放された潔さ、そういったものを感じてしまいがちです。奈緒は「アイドルとはこうあるべきだ」というスタンスとは無縁の、今ここにいる自分が自分である、ということに対する誇りに満ちたアイドルだと思うので、そのものそのままな曲を渡しました。でも多分、仲間思いの彼女なら自分に重ねるより他者へのエールとしてこの曲を見出すんじゃないかな、という思いもあります。二部後半は意図的にそういう類の曲を寄せ集めたので、もし当てはまるような人がいれば存分に支えられていってほしいですね。私もその一人。

 

配置に関してはわりと自由のきく(無駄な縛りを設けていない、ともいう)曲でしたが、最終的にはこれもガツンと攻めていく方向に落ち着きました。詰め込みに詰め込んだ第二部も、残るはあと一曲のみ。クライマックスに向けて、一歩一歩着実に歩を進めていきましょう。最後はちょっと心の準備がいるかもしれないので(そうでもないか)。

  

2-7 周防桃子『Please Mr. Lostman』

――高らかに轟いた奈緒の決意表明。その力強さが支えとなって、今一人の少女が壇上へと向かう。ラストを締めくくるのは桃子。いったい、彼女はどんな気持ちでこの曲を歌うのだろう。6人の想いを、そして他ならぬ桃子自身の想いを乗せて、物語は動き出す。

 

この曲で「堂々入場!」ってなんだよ、となった方もおられるのでしょうか。一応私としては選曲に合うイラストを直球で引っ張ってきたつもりですが、これまた曲自体がなかなか選び辛いといえば選び辛い曲なので難しいところです。選曲事由は後段に回すとして、イラスト単体に言及するならば。「勝利の微笑」にコレということで、「渾身のアピール!」は?となることでしょう。つまりIMC14です。残念ながらグリマスイベに殆ど触れていないのですが、この3人のユニットなんて絶対素晴らしいものとなるに決まってるじゃないか、と言わざるを得ませんね。そういうことなので3枚とも大好きです。

 

……で。肝心の曲なんですが、これはどうなんでしょう。選曲当時は首をかしげる人がそれなりの数出てくるんじゃないか、と予想していましたが。RUSHのときにあれだけ書いたので言わんとすることは伝わっている筈、というのは希望的観測が過ぎますかね。座談会でも触れた話なんですが、この後の選曲も含めて。キツめの選曲というのは、とどのつまり「そこを乗り越えたものの目」、としての表現を期待してるんですよね。先に挙げた条件①、つまりグリマス終了段階まで歩を進めているということの重要性はここにおいてダイレクトに活きてきます。それら全てを引っくるめたうえで、桃子が最高の笑顔でこの曲を会場に届けてくれることを願わずにはいられないのです。世の中の酸いも甘いも噛み分けているようでいて、その実大切なことはまだ何も知らないということに気づいた少女がこの曲を歌ったら、それはそれは力強いものになるでしょう。それこそ一番の歌詞でいえば、重要なのは木の枝は時が経てば朽ち果てるということではなく、そこに星が咲いていたことなんだと思います。アルバムの性格上(締めのタイトルトラックというのもあり)最終的にはどこまでも前向きなので素直な選曲だと信じている自分と、そうはいってもやっぱり捻くれているのかなあと不安になる自分がバトルを繰り広げているのは紛れもない事実です。が、それでも私は自分の選択を信じたい。そう思いながらこの段を書き記しています。

 

件のアルバム『Please, Mr. Lostman』におけるこの曲の位置付けにやられた側の人間である以上、セクションの最後に配置するのは確定事項でした。そのうえで「瑞希や紗代子と同じセクションに差し込みたい」という思いも早くから抱いていたため、もうこの位置しかあり得ませんでした。第二部のトリということで相応の責務を負うのも確かですが、桃子の性格的にはそういう位置こそ燃えてくれる気もします。セクションメンバーの支えもありますし。どうか、存分に暴れてきて欲しいです。

 

随分長くなりましたが、漸く第二部も終了となります。ライブもそろそろ中盤。中弛みは厳禁です。

  

・第三部

3-1 松田亜利沙『WALKIN' ON THE SPIRAL』

――あくまでまだ序盤の一区切りだというのに、押し寄せる圧倒的な感情の波。まだまだ休んでなんかいられない、といいつつもここはいったん小休止。抑えきれない胸の高鳴り。短いようで長いインターバルは突然の暗転で漸く終わりを告げた。間髪入れず煽り立てる怒濤の前口上。再度照らし出される壇上に立つのは、この光景を最も強く夢見ていたであろう少女。第三部の火蓋が切って落とされた。

 

「やっぱりアイドルが好き!」は、もうカード名といいイラストの構図といい大好きと言うほかない一枚です。私が亜利沙に見出しているもの、自分の好きなものを自分の手で推していける強さが現れていると思います。なにせ路上警備の警官すら赤サイリウム振ってますからね、これ。表情もとても好きです。方向性としては揃っているけれども、明るさや楽しさ、力強さといった色々な感情が入り交じっているように読み取れるんですよね。見ているだけで元気になれる、勇気を貰える。そういったイラストだと思います。こういうのに滅法弱い。

 

亜利沙はthe pillowsの陽の部分ととても親和性が高いので、どこから引っ張ってこようかちょっと迷いました(只管前向きな曲を選ぼうという意思は一貫していました)。そこでポイントになったのが、憧れていたところに自分が立っている、というそのポジションです。私は、それが好きなものであれば好きなものであるほど、自らがそれに携わるということには苦難がつきまとうものだと考えています。そういうこともあって、亜利沙がアイドルとしての自分を楽しんでいるのを見ると本当に「凄い」、他に色々表現はあるかもしれないけれどもやっぱり「凄い」んだよなあ、というところに落ち着いてしまいます。ですから、その亜利沙に届けて欲しい思いというのはやっぱり「間違ってなんかいない」という熱い叫びでした(挑戦的に過ぎる気もしますが)。それら諸々を踏まえて、ガツンとくる曲を考えていたら、この曲に思い至った瞬間「あ、コレしかないわ」と決着しました。自分で言うのもナンですが、かなりいい線突けたんじゃないか、と。

 

亜利沙にはセクションの先駆けを努めてもらおう、というのは早々に決めていました。煽り屋としてこの上ないでしょうし、適材適所といえるのではないでしょうか。セクション間の配置としては、山場となるセクションでしっとりした後を引き継いで欲しいという想いがありましたが、これ改めて見返すと第二部から第六部の中セクションはどれも最後そういう曲で締めてる感が否めないんですよね。まあ、ツアー公演への併用を考えたことが徒になったと言いますか。裏を返せば他のセクションもトップバッターはそういう方向性で揃えているので問題ないのかもしれません(作成者の言とは思えない)。となると後はセクション内の曲構成での判断です。実のところ第五部からラストはセトリとしてしっかり考える前の選曲段階からこういうノリで畳みかけていきたい、というのが念頭にあったため、入れ替えを考えられたのは三-四部間だけだったりするんですよね。でも結局今このセトリを聴き直してみると、やっぱりこの順番で正解だったな、と思います。三-四部間・四-五部間のどちらも、今の繋ぎが好きなので。

  

3-2 佐竹美奈子『Come on, Ghost』

――亜利沙の熱にほだされて場内は一気にヒートアップ。そうだ、まだまだ感傷に浸ってる場合じゃない。アウトロのコードが鳴り響き、やってやったぜ……とご満悦な彼女の背後から、次の演者が不敵な笑みでやってくる。どうやらこちらも負けず劣らずの熱さをその胸に秘めてきたらしい。ぼやぼやしてると食われちまうぞ。

 

先に言っておくと。この「ENJOY HARMONY」を含め、周年ライブカードは背景が一様のため他のカードと並べると一瞬インパクトに欠けると思われてしまうやもしれませんが、そういうつもりはありません(ダイジェスト動画でそう見えなくもないことに気づき、若干冷や汗をかきました)。シンプルに、私の中で選曲とマッチするイラストがたまたまそこに帰着した、というだけのことです。今回選べませんでしたが、紗代子の「HAPPY PERFORMANCE」とか彼女のイラストの中でも五指に入るんじゃないかというくらい大好きですし。ということで、美奈子にこの曲を振った時点でそういう方向性のカードを探った結果、寧ろコレが最適解では、となったわけです。かわいさとカッコよさがうまく両立していますし、背景のアステロイド的煌めきにも惹かれました。やはり周年ライブカードは強い。

 

ムビマスを引き合いに出すと、美奈子は奈緒と共に優しいけど踏み込みきれないお姉さん的ポジションで描かれていた(記号化しすぎかな)ように見受けられます。でもこの二人、ゲーム内ではそこそこエキセントリックな面もあるわけで。双方触れるうち、なかなか面白い差異だよな、とか考えていました。ですから美奈子には、牙を剥き出しにして場内を呑み込んで欲しい、という考えがパッと浮かぶ一方で、勢いだけに落とし込まないクールな狂気、みたいなものを渡したら乗り気になってくれるんじゃないかという期待も同時に湧いてきたわけです。曲中でもモチーフとして「飼い慣らされる」とか出てくるわけで、比喩とはいえどまあ美奈子なら飼い慣らされることは望まんよなあ、というところでも合致したように思います。性格そのものの二面性、というわけではないのですが、描かれ方次第で大きくその姿を変えるというところから入った選曲が、予想外にうまくハマって喜んだ組み合わせです。

 

個人的に、亜利沙もわりと捉え方によって美奈子と同じような二面性を見せる印象があったので(そんなこと言い始めたら誰だってそうかもしれませんが)、という側面も多分にあったのは事実ですが。決め手となったのは、亜利沙で上げたボルテージをテンションそのものは保ったままクールに引き戻す、という意図です。ソリッドな音像に引っ張られて忘れがちですが、この曲意外とテンポはどっしりしているので。わやくちゃになった観客達をグッと引きつけて、ラスサビの締めで叩きつけて去る(後述の通り実際はこの後でMCですが)。そのくらい良い意味で挑戦的な態度を以て臨めたら、2曲目としては理想的じゃないでしょうか。

 

3-3 双海真美『Sick Vibration』

――美奈子の強烈な一撃を受けたところで、亜利沙も出てきてMC。こうしてみると、場内一のテンションは他でもない亜利沙のようで。放っておけばいつまでもしゃべり倒しそうなところを、美奈子に御され辛うじて踏みとどまる。正直に言えば、その熱い語りすらずっと聴いていたいところだけれど。巻きの合図。そそくさと壇上を去る二人の背後からは、軽快なスネアのビート。次の曲が始まる。

 

律子の時と全く同じことを言うようで恐縮ですが、「アルティメットライブ!」、いいですよねえ。改めてみると皆それぞれに素晴らしくて浸ってしまうんですが、今回の企画では3人ほどこのシリーズから選択しています(最後の一人はまた後ほど)。真美のこれは今回の選曲意図とモロに噛み合う構図でしたね。偶然ながら、律子と真美が同じシリーズからのチョイスというのは、組み合わせとして悪戯しては叱られるというお決まりのパターンを想起させるかもしれません。とはいえ、先に言ってしまうと亜美は別のところから選んでるんですが。

 

さて、この曲が多分ダイジェスト動画を作成いただく際のネックとなったのはまあまず間違いないでしょう。twtterに投げた当時もSick Vibrationなんて文字列久々に見たな、的反応があったのを覚えています。それもこれも彼等のB面集新旧二枚の間に狭間があることが問題なんですが。今聴くなら5枚組のBOXが一番手っ取り早いでしょう。……いやしかし『Another morning, Another pillows』の曲順は完成されてて捨てがたいんだよなあ。っと、脱線しました。とにかく、こんなニッチな曲を挟み込んでしまったが故に主宰には余計な負担をかけてしまったようで、すみませんでした。本題に入ります。

 

座談会でも触れられてますが、曲調の明るさとは裏腹に、歌詞は結構寂しいんですよね。サビの印象が強く残る曲ですが、そこで歌われているのは絶えずつきまとう不安や孤独なので。ではなぜ真美にこの曲かというと、それはやっぱり竜宮やアニマスを経てミリオンへと至る道を意識した部分が大きいためです。ミリオン時空ではもう完全に双子達は2人の個としてやっていけているように感じますし、ある日突然それが成ったわけでもないので。この曲を渡したら、そういう部分を感じるところはあるんじゃないかな、と思い選曲しました。ミリオン最初のCD企画であるLTPの持ち曲を考えると亜美になってもおかしくないんですが、それでも真美を選んだのはやっぱり姉であること、そして竜宮という存在があったからです。しかしそうはいっても、ここでも選曲者たる私が考えていることは過去より未来、自より他です(いくら今を楽しくやっているとはいえアイドルに無茶を言いすぎでは……)。そうやって今を楽しくやっている真美こそ、突然ぼんやりとした不安や孤独に襲われるような人にエールを送れる人物として相応しいんじゃないかと。そう思います。

 

ここはMC開けなので繋ぎというほど繋ぎを意識してはいません。が、熱量の高いアイドルが続いたところにまた熱量の高いアイドルと歯切れ良い曲を投入しておきながら、その実じっくり聴いているうちにいつの間にやら浸ってしまう。そういうクラブミュージックでいうところのチルアウト的ニュアンスを狙っているのは確かです(普段机上や出先でしかそういう曲を聴いたことないくせに何がわかるというのか)。ライブで考えるなら、歓声と熱狂ではなく拍手と一体感で結ばれるようなイメージでしょうか。いい清涼剤になってくれること請け合い。

  

3-4 木下ひなた『Tiny Boat

――先の二人とは裏腹に、落ち着いた雰囲気で攻めてきた真美。空間を圧倒するのは勢いだけではない、ということをこれでもかと言わんばかりに知らしめた。ラストの和音の余韻に浸るも、彼方から聞こえてくる特徴的な分散和音にはっとする。なるほど、こう繋げてきたか。

 

合わせたカードは「ハピネスエンジェルフェザー」。これまた単純に、曲が決まったところでそれっぽい印象のカードをド直球に選んできた形です。まあ育と同じく、私のひなた観が単純というかあまり捻くれていないので(他がどうなのかは自分では判断がつきません)すんなり決まりました。そのまんまですが、このイラストに描かれているような率直さで歌って欲しいですね。

 

この組み合わせは、考え始めたら割とすぐに出てきてそのまま決まりました。バンドの性格上捻くれた選曲から固めていった方が気が楽かと思っていたので、いざひなたの曲を考え始めたのは後半に入ってからでしたが。詞をひなたにそのまま当てはめてしっくりくる、ということもあるにはあるんですが、どちらかというと聴く側に立ったとき、こういう優しい物語を届けられたらコロッといっちゃうのは誰だろう、という視点から選曲した面が強いです。良い意味で恥ずかしい詞なので、赤面しちゃうようであればそれはそれでリンゴっぽいしアリかな、なんて。曲調に『りんごのマーチ』に連なるようなイメージを見出せた、というところも大きいです。

 

『Sick Vibration』に続けてこの曲を聴いたことがある人がいるのかは不明ですが、いざやってみると調性云々もありながら、寧ろマーチ的で雑にいえばミニマルなドラムに乗ったビート感に親和性の高さを感じます。しかしそのおかげもあり、きっちり4という数字に則っている前者に対し、後者がサビ終わりでさらに2(+2)小節分の余韻を残す、というところが際立ってくるんじゃないかな、という印象を受けました。言葉にすると伝わりづらいですが。このサビ終わりの浮遊感が本当に好きなので、もしここに記したような対比が伝わるようであれば、それこそ選曲者冥利に尽きるというものです。詞としても、真美が見せた一抹の寂しさをひなたが拾い上げていくようなイメージがしっくりきたので、うまい繋ぎになったかなと思います。

 

3-5 豊川風花『ノンフィクション』

――真美、ひなたと続いて場内は完全に優しい雰囲気に包まれた。どうやら次は風花さん。ではこのまま第三部は落ち着いた進行なのか、というと。そうは問屋が卸さない。ここからまた徐々に熱量が注ぎ込まれていくらしい。その証拠に、聞こえてきたのは乾いたドラムと捻くれたメロディのギター。まだまだここから。

 

「可愛いプレゼント」を見ると、改めてやっぱり風花さんは大人組よなあ、ということを再認識するといいますか。大人びた、ではなくまんま大人側の美しさがあるよなあ、と思うわけです。そんなこんなで、このイラストはシーン由来ではなく印象で寄せた結果の選択です。その印象というのは選曲と結びつくところが大きいので、そちらについて触れていきたいと思います。

 

多分、今回の企画の中でトップクラスに掴みどころのない選曲かもしれません。この組み合わせを見て頷いた人、いるんでしょうか。ちょっといそうにない気がしますね。というのも、選曲理由がざっくり言えば「ティンときた」そのものなので。それはこの企画に参加するからには一から歌詞も含めて聴き直すぞ、と一念発起した際の出来事だったんですが。この曲に行き着いたとき、最後のフレーズの「キミ」で脳裏を過ぎったのが風花さんだったんですよね。そのちょっとした印象が何故か脳裏に焼き付いたようで、いつの間にやら自分の中で確定されていました。まあ少し考えたら、看護師やってた人だから当直の夜勤とかもあったかもしれないし、そこで患者との交流もあったかもなあ……といった輪郭もおぼろげながら見えてきたんですが。しかし実際には、この曲をわりとコラージュ的に捉えているところがあって、夜に散らばった諸々がそのまま歌われている、つまりノンフィクション、みたいな強引な解釈をしているのかもなあ、とも思います。そういったわけで、きっかけを得た後は具体的な物語性よりサビの印象にその包容力が合致するかなあ、といった部分から肉付けしていったといえるかもしれません。そのあたりのゴタゴタは書かない限り少しも見えてこないので、何でこの選曲なんだ、と訝しむ人がいるのも宜なるかな、といった面持ちです。

 

同じセクションの中には近い曲を置きたい、というのはかねてから考えていたので、美奈子に真美に風花さん、とやたらスネア始まりの曲が多いのは意図的です。前曲で落ち着いた場内のボルテージを違和感なく持ち上げるにはこのくらいのノリがもってこいかなあ、と思っていたので、ここが第三部後半への転換点として機能したら完璧ですね。

 

3-6 ロコ『GOOD DREAMS』

――風花さんの優しい歌声に乗せられたところで、場内の空気はまた徐々に熱さを取り戻していく。そんな空気を知ってか知らずか、爆発的なパワーを秘めたイントロでそのテンションは引き継がれる。少女の夢は世界を塗りつぶすことができるのだろうか。できるかできないかではない、やるのだ。

 

ロコで選ぶカードも「グレートアーティファクト」で決まりでした。そこにあるごちゃごちゃした表象の集まりがロコとしての一体感を演出するイメージが、自分の中のロコ像、とくにここで考えていた方向性と見事に重なった結果です。存分に暴れてもらいたかったのでやりたいことやってご満悦の姿が欲しかった、ということですね。いつ見ても素晴らしい笑顔です。

 

ロコとthe pillowsなら、カタカナが散りばめられたややシュールな曲を組み合わせればロコ感マシマシ、というのも十分アリだと思いますが、コレを選んでいるときにはそちら側の方向性を殆ど考えていませんでした。正確には、誰がなんと言おうと我が道を突き進む、という姿勢の方にある種盲目的な焦点の合わせ方をしていたと言えるかもしれません。わりとどこをとっても(ロコじゃん)となる詞だと個人的には感じるんですが、皆さんはどうでしょうね。あっさりしたイントロから一気に解き放たれるサビのエネルギーも含めて、実にロコらしいといいますか。

 

この曲の爆発力は、セクションラストにして解き放つような使い方でも十分映えると思います。実際第三部はラスト二曲の順番に悩んだんですが、ラスト前に一発かましておく方がアクセントが効いていて良いかな、と考えこうなりました。加えて、逆にするとMCの挟みどころに困るな、というのもあり。というわけで次はMC、開ければ第三部も終わり。前半戦有終の美を飾ってもらいましょう。

 

3-7 箱崎星梨花BOAT HOUSE』

――ロコらしさ全開の『GOOD DREAMS』。会場をロコ一色に染めたところで、第三部締めのMC。とはいえ、まだ一曲残っているらしく。これから歌う曲について語る少女の切実さに胸を打たれる。ひとときの闇の向こうには、優しい優しい少女の姿。

 

ここでまた選択カードが周年ライブの「HAPPY PERFORMANCE」。こうやって見比べると、「ENJOY HERMONY」美奈子もこちらも両の掌を握りしめているわけですが。偶然です。とはいうものの、握り方が与える印象って面白いですね。改めてじっくり見返すことで得た知見でした。選択理由はごく簡単に、これも歌詞そのままです。

 

なんかそれっぽいことを書く前に、コレを書くにあたって改めて聴き直していたら染み渡ってきたことなんですが。この曲、本当にサビのベースラインが素晴らしいです。杏奈に弾いてもらいたい……。と、あだしごとはさておき。おそらくこの曲が本リストの中でもトップクラスに「手渡したときの反応を想像して」選んだ、という側面が強く出ています。その証拠に、選んだときから頭の中には「この物語を通じてどういう感想を得たか聴く」、というイメージがはっきりとありました。星梨花本人はあくまで「僕」でも「君」でもなく、というところからどう感じるかなあ、という興味ですね。おそらく優しい彼女は物語の切ない明るさそのものを応援してあげたくなるような、そんな気がします。ではそれを誰が聴くのかといえば、当然会場にいるファン達に他ならないわけで。受け取るファン側にはこれを「僕」と「君」に重ねる人が出てきてもおかしくないかなあ、と思います。そういう部分を踏まえて、会場内にいる不特定多数の「僕」が踏ん張る糧になるようなら、それが一番幸せな形なんじゃないでしょうか。

 

もうこの曲の位置に関しては前曲の項で触れてしまったかな、という気もしますが。前曲まででテンションは保ちつつボルテージに起伏を作る、というところは成されていると判断して、MC後のEDにあたる一曲としました。第三部全体を通して部分的に共通している「優しさ」というところは、ここにきて頂点を迎えます。

 

と、いうわけで漸く第三部終了。公演全体としては折り返し地点です。

この先はまた次の記事に回そうと思います。既に20,000字超なので……。